Tokyo

渡邊陽平 瞬きを紡ぐ

2007/5/30–6/23

渡邊陽平個展「瞬きを紡ぐ」
2007/5/30(wed) - 6/23(sat)

オープニング:2007年5月30日(土)18:00-20:00

この度、東京画廊では、渡邊陽平による個展「瞬きを紡ぐ」展を開催いたします。今回は、2003年から最近の作品を展示いたします。

渡邊陽平は、風景や人物などのモチーフを、油彩や色鉛筆を用いて細密かつ鮮やかに描きます。一見、非現実的な光景として描かれたそれらのモチーフは、作家自身が現実と非現実の中間のような領域から導き出すもう一つの世界として、曖昧な印象を含みながらも不思議な現実感を有しています。現実と非現実、目に見えるものと見えないものとが混在する独特な世界観と、それらが配された美しさと空虚な印象を併せ持つ白の表現が、渡邊陽平の作品の魅力です。

作家は、現実と非現実の中間のような領域から描くイメージを求めるといいます。「夜、寝床に入って、夢にたどり着くまでに浮かんでくる景色みたいに、今日あった出来事や、子供のころの思い出、読んだことのある本、聞いたことのある言葉、光、風景などが、海のように波打ちながら混ざり合っている景色」と作家自身が語る、混沌で曖昧な印象の中から垣間見た「瞬き」のようなイメージを、画面上に細かく繊細なタッチで「紡ぐ」ように描き出そうと試みます。織り重ねられた鮮やかな色彩によって紡ぎ出されたイメージは、繊細な印象と波のような流れの形象を伴いながら、新たな世界を創出します。

イメージが配される白の空間は、油絵具を丁寧に磨きこんだ独特な質感に仕上げられており、白の表現に向けられた作家の強い思い入れが感じられます。この白の表現が、描かれたイメージの印象をより際立たせ確かなものにすると同時に、白の上に配された鮮やかな色彩を際立たせます。また同時に、色彩によって紡がれた表現が、白の持つ空虚な印象を際立たせる効果も担い、白と色彩の相互作用が、画面の中の世界を成り立たせているように思われます。作家が中間領域の流れの中で捉えたイメージは、流れの形象を含みながら白の背景と混ざり合い、一つの世界として紡がれるのかもしれません。

渡邊陽平の、現実と非現実を混在したものとした世界の捉え方は、全ての人において多かれ少なかれ備わっている初原的感覚なのではないでしょうか。今は、殆どの人がそのことを忘れたり、あるいは意識的に否定したりすることによって、現実の側にのみ日常性の安定を得ている傾向にあります。そのような環境のなか、渡邊陽平の表現は、普段意識することのない見えにくいものや聞こえにくいものが日常の中にも存在する事を、私たちに思い出させてくれるのではないでしょうか。

この機会に、渡邊陽平の作品をご高覧いただきますよう、ご来廊を心よりお待ちしております。